【インタビュー】熊谷俊之 ヤマハ・クラシックギターGC82C(2014)モニターインタビュー

今回はヤマハ株式会社制作の最高ランククラシックギターのモニターとなった
ギタリストの熊谷俊之さんに使用した感想を伺いました。

日時:2016年2月28日
会場:東京音楽院
インタビュアー:飯田敏史(ギタリスト)
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飯田(以下I):モニターとして楽器を手にしてどれくらい経ちましたか。

熊谷(以下K):約一週間ほど経ちました。

I:使用してみた感想を伺っていきたいのですが、例えば、具体的に左手に関してはどのように感じましたか。

K:ネックが薄めでかまぼこ型に成型されていて、日本人に合っていると思います。押さえた感じは自然でした。

I:海外の製品と比べると小型なのでしょうか。

K:ネックの幅が広かったり、厚みがある場合が多いので、削り方によって左手に合う、合わない事があります。今回のギターは薄く、小さめの印象です。

I:ギターをこれから購入する方に向けて、アドバイスはありますか。

K:実際に構えて押さえてみる事が大切です。ギターによって違いがありますので、いくつか比べてみて、個体による違いを認識できると良いでしょう。楽器自体を触った事がない方であれば、経験者の方と同行して比較してもらうと良いと思います。

I:それでは続いて、右手に関してはどうでしょうか。

K:右手で触れる感覚は弦によって変わります。弦を変える事で、まるで違う楽器のように変化します。また、張力の感覚は人によって異なりますので、自分自身で一通り試すと良いです。

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I:今はまだ短い期間ですが、どのような弦を張っていますか。

K:最初はオーガスティンを張っていましたが、自分のギターでも使用しているプロアルテを試しています。この後サバレスも試してみようと思います。

I:楽器本体の重さ、はどうでしょうか。

K:自分のギターよりも軽いと思います。実際に測ってはいませんが、ボディの厚みも薄く、小柄な印象です。

I:続いて皆さんが気になる、音についてはどう感じますか。

K:スタンダードでありながら、音色にバリエーションがあり、温かみのある音だと思います。

I:熊谷さんが感じるスタンダードな音、について具体的に教えてください。

K:伝統的な印象です。最近は現代的な構造で、音の質も昔ながらの楽器からは異なる印象を受けるギターもあります。今回は、伝統的な音を守っている感じです。

I:楽器の作り方に関しても昔ながらの作りの方が好みですか。

K:中身の構造に関しては特にこだわりませんが、音色に関しては伝統的なギターの音色を守っていて欲しいです。その上で例えば、レイズドフィンガーボードなど、新しい構造を取り入れたものは積極的に試してみたいと思っています。

I:音量に関してはどうでしょうか。

K:ギターの中では決して音量が大きい楽器では無いと思います。最近は右手のタッチを強くして音量を出す事に集中している方が増えてきていると感じます。しかし、その弾き方に単純に反応できるギターが良いギターとは限りません。

I:音量だけでは良し悪しを判別できない、という事でしょうか。

K:ある程度の技術が必要だけれども深い音を出したいと思った時に、その音が出てくれるギターが必要です。触れた時に音量が小さいと思っても力任せに弾かないで、音色の幅を確かめたいですね。

I:音に関する全体の印象はどうでしょうか。また、このギターで弾くとすれば、どのようなレパートリーが合うと思いますか。

K:バランスの良いギターだと思います。音色に関しては深い音を持っていて、伝統的な音質ですので、フランシスコ・タレガの曲などが合うでしょうか。

(「ラグリマ」(フランシスコ・タレガ)を演奏)

I:色々考慮してこのギター、どうですか?

K:好きなタイプですね、なんか気に入ってます。

I:気に入った点があれば教えてください。
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K:見た目ですね(笑)。ギターの見た目に関してはポイントがいくつかあって、サウンドホールのモザイクやパフリング(ボディの縁にある帯状の飾り)の柄、ボディの形状などのバランスが、奇を衒わない王道な印象です。ただし、ボディのデザインのバランスに比べて、ヘッドの彫刻やデザインは、やや主張が強いような感じがします。

I :  ここまで、楽器について色々と興味深いお話をお伺いしてきましたが、
やはり百聞は一見にしかず。いや、百閒は一聴にしかず ということで、
熊谷さんの演奏でこのギターを聴いてみたいと読者の方も多いかと思います。
近々このギターで演奏する機会はありますか?

K : よくぞ聞いてくださいました(笑) 実は、4月3日(日)17時より
 東京音楽院にてオーストリアから来日するギタリストFlorian Palier氏
     ジョイントリサイタルを行います。こちらのリサイタルでこのギターで演奏したいと思います。是非お越しください。

I : それは楽しみですね。コンサートのご成功をお祈りしています。
今日はありがとうございました。

—————————————-[ コンサートのお知らせ ]—————————————

第2回ワインと音楽を楽しむ会
日時 2016年4月3日(日) 18時開場 18時30分開演
場所 東京音楽院 新宿区新宿5丁目11-20 伊土ビル202号室
(東京メトロ新宿3丁目E2出口より徒歩3分。医科大通り沿い)
演奏 熊谷俊之&Florian Palier
チケット 3,000円(限定16名)
※グラスワイン1杯付き
お問合せ info@kons-tokyo.com または090-6448-9324
曲目 A.バリオス作曲 全ての祈り 春のワルツ 前奏曲作品5-1
R.ミランダ作曲 アパッショナータ 他

Florian 5

【Florian Palier】
オーストリア生まれ。幼い頃からギタリストである父ヨハン•パリアーにギターを師事する。その後キューバ人ギタリスト、マルコ•タマヨに師事。2015年ウィーン国立音楽大学院でアルバロ•ピエッリのクラスを審査員満場一致の成績で終了。クラシックギタリストとして活動をするパリアーだが、長い間ジャズギタリストとして、その他エレクトリカルな数々なミュージックシーンでも活動し、クラシック以外のジャンルでも音楽経験が豊富である。ペペ•ロメロ、デュージャン•ボグダノヴィチ、ロサンゼルスギターカルテットには特に影響を受ける。ユンディ•メニューイン創設のLife Music Nowメンバーとして活動もしている。

アンナ•アマリア国際ギターコンクール(ドイツ•ワイマール)
クトゥナ•ホラ国際ギターコンクール(チェコ)
ツヴェンツ国際ギターコンクール(オランダ•エンスヘーデ)
数々の国際コンクールに優勝を果たしている。
これまでに欧米を中心にコンサート活動を展開し、台湾ではコンサート以外にもラジオ、TV等メディアにも多数出演している。現在オーストリア•グラーツ市Johann-Joseph-Fux-Konservatorium音楽院ギター科講師。

 

【ひと・インタビュー】フルーティスト荒井美幸さん 

記念すべきインタビュー第一回目は、東京音楽院フルート科講師で
幼児専門音楽教育「森の音楽館」主任講師の荒井美幸さんです。
テーマは、オーストリアの音楽教育と、現在首都圏で展開中の幼児専門音楽教育
「森の音楽館」についてお聞きしたいと思います。

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今日はよろしくお願いします。

荒井: よろしくお願いします。

まずは簡単な自己紹介からお願いします。

荒井:はい。2003年から2013年までオーストリアのウィーン国立音楽大学
器楽教育学部フルート科に在籍し、学士・修士課程を取得しました。
その後帰国し、現在は地元の群馬と東京音楽院、そして保育園で出張レッスンを行う幼児専門音楽教育「森の音楽館」に携わり、東京と群馬の往復生活を送っています。

長い間ウィーンにいらっしゃったのですね。ウィーン国立音楽大学にて学士、修士を取得と言うことは、当然のことながら卒業論文を書かれたのですよね?

荒井:はい。トータルで3つ書きました。

テーマは何だったのですか?また、何ページくらいですか?

荒井:学士は「ドビュッシー、そして彼の誌的音楽について」と
「初期バロック時代からのフルートの開発と要因」
修士は「メシアンの7つの俳諧~日本についての音楽スケッチ」で
こちらは80ページほどでした。

大変興味深いテーマの論文ですね。それにしてもドイツ語で80ページも書くなんて
気が遠くなる作業ですね。

荒井:そうですね。はじめは自分に書けるかと不安でしたが、資料収集をしたり
疑問に思っていたことが自分の言葉で説明できたりと、徐々に不安が自信に変わっていきました。論文担当教授や周りの支えにより、論文が完成した時は、なんとも言えない気持ちになりましたね。

その件は今度またインタビューさせて頂きたいと思いますが、今回はオーストリアの音楽教育、そして今荒井さんが行っている幼児専門音楽教育「森の音楽館」についてお聞きしたいと思います。
荒井さんは日本の音大を卒業されてからウィーンに渡ったわけですが、
日本とオーストリアの音楽教育に差というか違いはありますか?

荒井:はい、差と言うか音楽の捉え方の違いを感じました。
その前に、私が通っていた大学について
少しお話しさせてください。ウィーン国立音楽大学器楽教育学部は、同分野ではヨーロッパの中でも古く、このような学部は実は日本にはありません。当学部では、演奏家を育てる教育のスペシャリストを育成することに重きを置いていて、演奏技術、指導法、心理学、幼児教育、音楽史など様々な分野を学びます。教育実習も行いました。大学の教授陣の教育に対する誇りをとても感じました。世界中から様々なジャンルの講師を招いて頻繁にワークショップを行い、絶えず新しい情報を取り入れています。

なるほど。それにしても色々なことを勉強しないといけないのですね。

荒井:はい、民族音楽の授業では、オーストリアの地方に行き、その土地の音楽と楽器、生活習慣なども勉強しました。

そうなんですね。日本で言うと、外国人がソーラン節を学びに北海道に行くような
ものですね。

荒井:まさにそうですね。ドイツ語圏で有名なのはヨーデルですね。どこの国にも地方の歌があり、その歌から季節感やその場所の風景、雰囲気が伝わってきますよね。民族音楽を勉強することにより、音楽がいかに人々の生活に関わっているかがわかります。あとは、オーストリアはキリスト教国ですから、ミサで賛美歌を歌う際にみんな口ずさむことができるんです。それを聴いたときに音楽と言葉がいかに密接に関わっているかがわかりました。「音楽を理解するには言語を学ばないといけない」と強く思ったのです。これは後にお話ししますが、今取り組んでいる幼児専門音楽教育「森の音楽館」に大きな影響を与えました。

音楽と言語が結びついているというをもう少しわかりやすく説明して頂けますか?

荒井:はい。それぞれの言葉はそれぞれに素晴らしいです。もちろん、日本語には日本語の素晴らしさもありますよね。例えば私が住んでいたオーストリアの言葉はドイツ語ですがアクセント、抑揚などが既に音楽的なんです。フレーズなどを理解するには、言葉のどこにアクセントがあるか、文の中でどの言葉を強調するかなどを理解すると文章が立体的なる。これがそのまま音楽にも言えるのです。

なるほど。音楽は歌が基本ですからね。それ以外に感じたことはありますか?

荒井:オーストリアに来て、音楽の学び方が大きく変わりました。
と言うのも、音楽にアプローチする手段が増えたというか。例えばカール
フィリップ エマニュエル バッハのクラヴィーア奏法やクヴァンツのフルート奏法を原語で読まないといけないとか(笑)音楽の背景をより知りたくなりましたね。資料も図書館や作曲家の記念館に行けばありますし。

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やはり環境や生活スタイルが違うのでしょうか。

荒井:そうですね。そういう意味で向こうで勉強できたのは幸せなことでした。

先ほど教育実習も行ったとおっしゃっていましたが、具体的にどういった内容だったのでしょうか?

荒井:はい、大学または州立の音楽学校で実施され、私が担当したのは
3歳から25歳の生徒でした。大学と大学院合わせて期間は約3年ありました。
フルートは初心者から大学受験を目指す生徒を対象とした実習、それと子どものための音楽教育実習もありました。


それは、レッスンする学生(荒井さん)を教授が指導するという授業ですか?

荒井:はい、正にその通りです。やっぱりはじめは緊張しましたね。一番始めの時はどうして良いかもわからず(笑)でも途中から楽しくなってきましたね。
教授もユーモアを持って指導してくださいましたし。

なるほど。それは貴重な経験ですね。オーストリアの子どもと日本の子どもの違いは何でしょうか?

荒井:向こうの子はミスを恐れません。多少違っていても堂々と意見を述べます。
恐らく様々な人種が混同する国ですから、その分価値観も多様なのだと思います。
このことは大きな衝撃でした。日本に戻ってきてからもそのことは胸に止めて
子どもたちに教えています。
一方で日本の子どもたちは、とても行儀がよいですね。先生のお話もしっかり聞きますし。

子どもの音楽教育について話が及びましたが、今取り組まれている幼児専門音楽教育
「森の音楽館」についてお聞かせください。

荒井:はい。きっかけは「ウィーン国立音楽大学で学んだことを日本に取り入れられないか」と思い、同大学で勉強した同級生と立ち上げました。
もちろん、人種構成や文化が違うので、そっくりそのままもちこむ訳にはいきません。ですから、日本で学んだ事も大切にしながら、
順応する道を探りました。

なるほど。確かにアウトプットの思いだけが先走りしても、インプットできないと
意味がないですしね。

荒井:そうなんです。しかし、少し難しいかもしれないけれども、是非子どもたちに伝えていきたいこともたくさんあり、他の先生と相談して、様々なことに果敢にチャレンジしています。例えばBrahmsやMozartのオペラ「魔笛」の歌曲をドイツ語で教えました。はじめは不安だらけでしたら、3歳~5歳の子どもの言語習得能力はとにかく早い!なおかつ、子どもたちはクラシック音楽に先入観がない!この点が大きかったです。純粋に美しい・楽しいと思った音楽は、すんなり吸収しちゃうんです。歌えるようになったときは本当に感動しました。それともう一つ。これは私たちのこだわりなのですが、元気よく音楽的に歌うことと音程が破たんした状態で叫んで歌うことは全く違います。「この歌はどんな感じかな?」と子どもたちに常に問いかけ、曲想が伝わるように歌うことや、P、PP, mP, <>も表現できるように心がけています。音楽の楽しさはこういうところに隠れていると思いますし、音楽を通じて感受性が豊かになってほしいと思っています。

確かに日本には「叫んで歌う=元気」を良しとする風潮がありますね。

荒井:元気がいいのは良いのですが、曲調とあっていないと意味がないと思います。そういった表現の幅はとても大事ですよね。私たち森の音楽館も絶えず新しいことを吸収するために、1年に一度ウィーンに研修に行っています。昨年は、同僚がウィーン少年合唱団付属幼稚園(現ウィーン市営幼稚園)や私立音楽学校で研修を積みました。今年も研修のためにウィーンに行く予定です。

絶えず勉強という訳ですね。
では、最後になりましたが森の音楽館の今後についてお聞かせください。

荒井:はい。森の音楽館は新しいことを取り入れながら音楽を様々な方向から捉え、子どもたちに伝えていきたいと思っています。それと同時に子どもひとりひとりの個性を大切に伸ばしていきたいです。森の音楽館のコンセプトは、『音楽を通して感性を、外国語を通して知性を、グループレッスンを通して協調性と思いやりを育む』です。この3つを大事にし、絶えず進化していきたいと思っています。音楽を一生の友にしてくれる子どもを育てていきたいと思っています。また、音楽を通じて自分にしかない「何か」を見つけてくれたら嬉しいです。

音楽を通して人間的な成長を、と言うことですね。
今後のご活躍を期待しております。ありがとうございました。
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【荒井美幸・プロフィール】

洗足学園短期大学、昭和音楽大学を経て、2003年ウィーンへ渡る。ウィーン国立音楽大学器楽教育学学士課程卒業、同大学院修士課程修了。バロックから現代即興音楽、劇中音楽、タンゴなど様々なシーンでウィーンを中心に活動をしてきた。2010年11月、自身の所属していたアンサンブル・タンゴカンパニーウィーンがウィーン楽友協会ブラームスホールにて演奏会を行う他、2012年8月 にはオーストリアのバードアオスゼーにて行われたウィーン国立歌劇場バレエ団の 公演、『Begegnung in Aussee,アオスゼーでの出会い』に出演。2013年に帰国し、現在は東京音楽院フルート科主任講師、幼児専門音楽教育「森の音楽館」主任講師、フルーティストとドイツ語通訳として活動中。

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