フルートアンサンブルの極意 ~「息を合わせる」とは~

こんにちは。東京音楽院フルート科講師の田山萌絵です。
お陰様で、前回の記事「初めてフルートを吹く方への基礎講座~楽器を組み立てる前の準備練習~」を、沢山の方々に見て頂きました。ありがとうございます。
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前回の記事では、楽器を吹く前に、息をコントロールすることの大切さをお話ししましたが、今回は良いアンサンブルを演奏するための秘訣をお話ししたいと思います。

この夏は、オリンピックでたくさんの熱い試合が行われましたね。タイムを競う陸上や水泳、試合形式でリーグ戦を勝ち進んでいく球技など、さまざまなジャンルの競技が行われましたが、音楽を生業としてコンクールを受けてきた私としては、体操やシンクロナイズドスイミングなどの技の難易度と表現力を問われる競技に見入ってしまいました。

その中でも、個人ではなく団体で演技するもののコメントの中で「息の合った演技」というのがありますね。動きや表情がぴったりと合った演技に送られることが多い言葉だと思いますが、これはフルートだけでなく息を使う管楽器でアンサンブルをするときに非常に重要な言葉になります。

呼吸を合わせる

管楽器を演奏する際、実際に息を使っていますので「息の合った演奏」というのは言葉そのままの意味になりますが、体を動かす演技に対しても「息の合った演技」という賛辞が送られるのはいったいどうしてなのでしょう?それは、何か動作を行う前に、人は必ず息を吸うからです。そして早い動作の時には早めの呼吸、ゆっくりした動作の時には遅めの呼吸という風に常にその動作にあった呼吸をしています。このように、呼吸というのはどんな動作をするときでも大事な要素なのです。

このことは、合奏をするときにも非常に重要なことです。
まず吹き始めは、どのように息を吸うかによって次に出てくる音が決まるといっても過言ではありません。実際に音を出す前から、もう音楽は始まっているのです。

音の強弱・表情・テンポ・吹き始めのタイミングといったことを、打ち合わせしなくても相手の息遣い(息の吸い方)を感じればすぐにわかります。逆に息の吸い方で自分の意思を明確に見せることによって、相手に自分の考えていることを伝えることもできます。
息をコントロールするために使う筋肉は、吸うときも吐くときも同じです。吸うときも吐くときも、同じ管(口から喉)を通って、肺に出入りしているのですから、動かし方は真逆かもしれませんが、使う筋肉の部位が同じであることがわかりますね。
そして、勢いよく吸ったら勢いよく、ゆったり吸ったらゆったりした息が出やすいです。逆に勢いよく吸ってゆったり吐こうとすると、丁寧なコントロールが必要です。ですので、どのように息を吸うのかが、出したい音を出すためにとても重要な動作なのです。

音をイメージする

どんな息を使うかを考える前に、そもそもどんな音があるのかを考えなければいけません。
音色については、いろんな形容詞がありますね。輝かしい音、温かい音、暗い音、濃い音など、さまざまです。そしてそれらは、どのような音楽に合わさるかによっても、聴こえる印象が変わってきます。
速いテンポの曲で鋭く短く軽い音を出したいのか、堂々とした曲で張りのある豊な音をテヌートで出したいのか、ゆったりした穏やかな曲で優しく滑らかな音を出したいのか。
こうやって並べて考えると、人によって感じ方も違うし、思い描く音の種類は星の数ほど出てきそうですね!
大事なことは、今自分はどんな音を出したいのか、今から演奏する曲はいったいどんな曲なのか、どんな想いをお客様に届けたいのか、それらのことを自分の中で整理することが大事です。
さて、どんな音を出したいのかが決まったら、やっとそれにふさわしい息を準備する段階に入ります。

イメージした音にふさわしい息を準備する

いろいろとイメージを膨らませたところで、実際に息と音色の関係を考えていきましょう。
まず、強弱についてですが、これは簡単ですね。たくさん吹けば強い音が、少ない息では弱い音が出ます。
これに似ているのが音の高さです。ピアノだったら、ピアノで出せるすべての音に対して個々に鍵盤が用意されていますが、フルートにはそんなにたくさん穴は開いていません。なので、同じ指使いで息の強さを加減して、音の高さを変える必要があります。たくさん吹けばより高音域の音が、少ない息だと低音域の音がでます。

このことから、フルートの音は高音の方が響きやすいことがわかるでしょう。
逆に言うと、低音域で強い音、高音域で弱い音を吹くのが非常に難しいのですが、そのお話はまた後日にしましょう。

次に表情についてです。最初の例に出した、鋭い短い音を出すには、鋭く短く息を吐く必要があります。優しく滑らかな音を出すには、よどみない息を絶やさずに吹き続けることが大事です。このように、イメージした音を表す言葉は、そっくりそのままその音を出すための息のことを言っているのです。
ということは、とにもかくにも出したい音のイメージをしっかり持つということが、一番大事なことなのです。そしてイメージ通りに体を動かすことを心がけてください。

イメージを共有して、アンサンブルをする

一人で演奏するときは、自己完結すればよいのですが、合奏をするときはそうはいきません。相手と一緒に、この曲はどんな曲なのか、どんな風に演奏するのかを共有することが必要です。言葉を交わして意思疎通することももちろん大切ですが、やはり実際に吹いて聴いて感じることがとても大事だと思います。

同じイメージを共有していたとしても、出てきた音が違っている場合もあります。その時は、音が揃うように練習しなければいけません。
吹奏楽部などのパート練習や、アンサンブル大会へ向けての指導をするときに必ず一度は試す練習があります。
まず二人一組になって相手と向かい合って立ちます。そして全く同じフレーズをパートナーを見ながら吹きます。今練習している曲の一節か、ロングトーンなどの基礎練習でもなんでも構いませんが、暗譜して吹くことが大事です。

順番を決めて、一人が自分の吹きたいように吹き、もう一人はそれを見て聴いて感じながら相手に完全に寄り添って吹く練習です。自分の吹きたいように吹く人は、どこでクレッシェンドしたいのか、どこでテンポをゆらしたいのかがしっかり伝わるように吹きます。合わせる方の人は、相手がどういう風に吹きたいのかを感じられるように、全身をセンサーにして吹きます。役割を交換してもう一度、そのあとはなるべく離れて同じことを、最後に背中合わせになって同じことを繰り返します。

この練習を通して一番大事なことは、相手の息遣いを真似するということです。そうすることによって、音色や表現が揃ってきます。まさしく息の合ったアンサンブルになるでしょう。

9月3日に行われる開校記念演奏会では、荒井美幸さんとフルートデュオでフリーデマンバッハ作曲の無伴奏フルートデュオと、ドップラー作曲の「夢遊病の女」によるパラフレーズを演奏いたします。息のぴったりと合った演奏をお届けできるように、準備をすすめております。ぜひ会場にて、体感していただけたら嬉しいです。

日時:2016年9月3日(土)14時開演(13時30分開場)
場所:新宿文化センター小ホール
チケット:一般3,500円 複数券3,000円※2枚以上購入の場合 子ども・学生券 2,000円 当日券:一般4,000円 子ども・学生券2,500円
チケット販売:新宿文化センター窓口または東京音楽院にて発売中。
お問合せ:info@kons-tokyo.comまたは090-6448-9324

【プログラム】

砂村友希
ピアノ ・F.Chopin, アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ

田山萌絵&荒井美幸 フルート (伴奏:砂村友希)
・F.Doppler, 「夢遊病の女」アデリーナ パッティの思い出による2本のフルートとピアノのためのパラフレーズ Op.42
・W.F.Bach , 2本のフルートのための6つの二重奏曲より第4番 ヘ長調

茂木真由美 ソプラノ (伴奏:稲田俊介)
・G.Puccini, オペラ「蝶々夫人」より『ある晴れた日に』

山口友由実 ピアノ
・C.Debussy , ベルガマスク組曲

休憩

中西勝之 バリトン (伴奏:稲田俊介)
・G.Rossini, オペラ「セビリアの理髪師」より『私は町の何でも屋』

伝田正秀 ヴァイオリン (伴奏:稲田俊介)
・P.Sarasate, ツィゴイネルワイゼン
・V.Monti, チャルダッシュ
・H.Vieuxtemps, アメリカの思い出

梯剛之 ピアノ
・F.Schubert, ピアノソナタ イ長調D664