【コンサートレポート】梯剛之さん ショパン・ピアノ協奏曲第一番

2016年3月5日(土)、上野・東京文化会館小ホール(約600名収容)で行われた
弦楽合奏団アカンサスⅡのコンサートに、梯剛之さんがソリストとして
出演しました。演奏曲目はショパンピアノ協奏曲1番。
開場前から多くのお客さんが列をなし、注目の高さがうかがえました。

IMG_3133(肖像権の関係で、画質は落としてあります)

そして開場とともに約600名の客席は瞬く間に満席になりました。
1曲目はグリーグのホルベルク組曲より、前奏曲。
初めて聴く曲でしたが、
古典派を思わせる縦の整然さがあり、とても聴きやすい曲。
グリーグの音楽は非常に清潔で
ノルウェーの澄んだ空気を連想させる透明感がありますが
この曲も例外ではありませんでした。
演奏も、それに相応しい洗練さと統一感があり
あっという間の時間でした。

※弦楽合奏団アカンサスⅡは
東京芸大出身の音楽家が中心となって結成した弦楽合奏団です。

プログラム2曲目は、梯さん演奏のショパンピアノ協奏曲第1番。

【第1楽章 Allegro maestoso】

冒頭の荘厳な前奏が始まり、先ほどのグリーグから
ショパンの世界へ、瞬時に引き込まれていきました。
そしていよいよピアノソロ。
哀愁漂うチェロの旋律に誘われ、e-mollのtonikaが力強く緊張の空間に響き渡ります。冒頭の6つの和音のエネルギーがアルペジオにのって一気に打ち上がり、
その後、光の粒になってきらきらと降り注ぐかのように下降します。
通常ピアノと言う楽器は、演奏者が望む音色になるまで、しばしの時間を要します。  鍵盤を触り始めてすぐには「音色」は出てこないのですが、
梯さんは、それができる数少ないピアニストだと思います。もしかしたら本人はそう思われていないのかもしれませんが、一音目から既にその美し音色に魅了されます。

ソナタ形式の楽曲の多くは、第1楽章に作曲技法や作曲家の思考が
より多く込められています。
この曲も例外ではなく、第1楽章は音楽的に内容が非常に深く、様々な場面が
登場しますが、梯さんは作曲家の意図を見事に理解し、それをピアノを通して
誠実且つ崇高な精神をもってアウトプットしている印象を受けました。

【2楽章 Romanze, Larghetto】

2楽章は作品としても大変素晴らしく
美しいメロディーが数多く出てきますが、
梯さんの演奏は、一音一音丁寧に音を紡ぐように奏で、
まるで教会の中で聖歌を聴いている様でした。

【3楽章 Rondo, Vivace】

3楽章はポーランドの民族舞踏「クラコヴィアク」を
連想させる軽快な様子が曲の端々から感じられます。
技巧的には、速いパッセージや高度なテクニックを要する部分もありますが
梯さんはスマートに引きこなし、むしろ
その「クラコヴィアク」をピアノで楽しんでいるかの様でした。

合奏団との調和も見事で、ステージ上の演奏者が
一体となった素晴らしい演奏でした。
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梯さんは、もともと音色に定評のあるピアニストですが、
ここ数年で劇的に感じるようになった変化は、音楽を通して聴き手に
「何か語りかけている」
そのような気がしてなりません。
音楽が直に心に訴えかけ、包み込んでくれます。

昔、ある巨匠が言っていたことを思い出しました。

「演奏者は音楽に主観的になると、聴き手に伝わらない」

梯さんの演奏スタイルは非常にシンプルでタッチも鍵盤を撫でるように弾きます。
その姿は、まるでただピアノの前に座っているだけかのようにさえ
思えてしまいます。
どこか、俯瞰して音楽を奏でている、晩年のルービンシュタインを連想させます。
とは言え、梯さんははまだ40歳前ですから、この先
どのように進化していくのか益々楽しみです。

≪梯さんの直近スケジュール≫
3月10日 沖縄県沖縄市比屋根小学校訪問コンサート
3月15日 沖縄県沖縄市美里中学校訪問コンサート
3月20日 大阪府高槻市摂津響Saal ソロリサイタル
3月21日 兵庫県芦屋市Salo Classicソロリサイタル
3月29日梯剛之ピアノマスタークラス in 東京音楽院
お申込みはこちらinfo@kons-tokyo.com
4月21日 東京文化会館小ホール ヴァイオリンデュオリサイタル
with Wolfgang David