ウィーン音楽研修 その② ”Zusammen Klaenge” 難民プロジェクト

ウィーン音楽研修②は、今回の研修の課題でもある現地音楽教育視察について。
連日、様々な授業を視察させて頂いておりますが、今日は「難民プロジェクト」について少し書きたいと思います。

昨年からニュースで目にすることが多いシリア難民問題。
混乱の祖国から逃れ、ヨーロッパ、とりわけドイツに
安住の地を求めて命がけで移動している映像を何度も目にしました。

そして、ドイツの隣国オーストリアも多くの難民を受け入れています。

国を挙げて支援が行われる中で、音楽もそのひとつの手段として
“Zusammen Klaenge”(一緒に響く)と言う名の難民プロジェクトに
ウィーン国立音楽大学は取り組んでいます。

目的は3つ。

・音楽を通して、心のケア、情操教育をはかる。(子ども大人年齢問わず)
・音楽を通して、西洋文化(特にオーストリア)に触れてもらう。
・プロジェクトを通して、現地の人々とつながりを持ってもらう。

今回は、東京音楽院Konservatorium Tokyo現地研究員の分玉絢子さん(ソプラノ歌手、ウィーン国立音楽大学器楽教育学部在籍)コーディネートの元、分玉さんが実際にレッスンを受け持っている授業を研修させて頂きました。

参加する生徒の年齢は8歳~13歳で出身国はシリア、アフガニスタン、ソマリア。ドイツ語もまだ十分に話せないような子ばかりですが音楽がその点をカバーしてくれます。レッスン時間は約1時間。レッスン代はもちろん無料。

授業の30分前に教室入りし、同僚のSebastianとレッスンの打ち合わせ。
通常はman to manの個別レッスンですが、分玉さんはグループレッスンを担当。
私も含めて3人体制で授業を行うことになりました。

まずは発声練習から。
朝起きてから学校に行くまでの動作を擬音を使って口の筋肉をほぐします。

例えば、
1、大きなあくびと共に両腕を何度も伸ばす様子(ア~ ア~)
2、朝ごはんを食べる音(ニャム ニャム ニャム)
3、歯ブラシをする音(ジー ジー ジー)
擬音は各言語によって違います。また、ドイツ語は日本語に比べて圧倒的に擬音が少ないです。

身体が温まってきたところで、椅子を片付け、輪になってリズム遊び。
手と足を使って頭とリズム感覚の体操を行いました。
しかし、これが中々出来ない。(先生も含めて)
集中していないとすぐに間違えてしまいます。
笑いが溢れ、徐々に打ち解け合えるようになり、気持ちのウォーミングアップにもなりました。
その後、2拍子と3拍子のリズムをステップで勉強。
出来てきたところで実際にピアノ伴奏に合わせみんなで拍子を刻んで遊びました。
曲目は、Bruder Jakob(日本語ではグーチョキパーの歌)Oh du lieber Augustin,
W.A. Mozert キラキラ星変奏曲、F.Chopin Waltz No.1など。

そして最後は、普段口にする野菜(なすび、トマト、パプリカ、にんじん、芋、たまねぎ)のイラストカードを使って、動作とリズムで野菜を表現。楽しみながら音楽と共に語学を学びました。

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~授業を振り返って~

名前の発音の仕方すらわからない。全くの異文化圏から来た子どもたち。それは子どもたちにとっても同じだと思います。
始めは互いにぎこちなく、慣れない感じでしたが
授業が進むにつれて、徐々に打ち解け合い、
たった60分の短い時間でしたが、音楽を通してわずかながらにも相互理解ができたのではないかと思います。

祖国シリアやソマリア、アフガニスタンで起きていることは、
普段日本に暮らす我々にはほとんど関係ないことの様に思えます。
しかし、国を失い、幼少期から考えられないような
境遇に陥っている子が沢山いるのも現実です。

なぜこのようなことが起きているのか、全く理解できません。

この状況をなんとか変えたいなど、大それたことも言えません。
ただ、こうやって音楽を通して理解し合えるチャンスを少しでも多く持てたら
良いのではないかと考えています。

オーストリアは小さな国ではありますが、難民問題が出て以降真っ先にこのプロジェクトを立ち上げ取り組んでいます。

このようなことが出来る国がオーストリアなんだと改めて感じました。