ノルウェーの地域音楽家支援制度について

今日は、ノルウェーの地域音楽家支援制度のお話をしたいと思います。
突然なぜノルウェーなのか?と思われる方もいらっしゃると思いますので
簡単に経緯を説明したいと思います。

先日、元日本コロムビア役員(現一般社団法人日本オーディオ協会諮問委員)で
世界で初めてデジタル録音を行った穴澤健明さんとお会いし、録音のことから
楽器のことまで幅広い内容のお話をお伺いする機会を得ました。
現役時代は、欧州の主要ホールで著名アーティストのデジタル録音を多数行ったそうです。

≪穴澤さんについてはこちら≫
http://pr.denon.com/jp/Denon/Lists/Posts/Post.aspx?ID=259

どのお話も大変興味深かったのですが、中でも特に印象に残った
お話しということで、ノルウェーの地域音楽家支援制度をご紹介させて頂きたいと
思います。当ブログの読者には音楽家も多数いらっしゃいますので、是非最後まで
お読みいただければ幸いです。

まず、ノルウェーと聞いて思い出すのが、ベルゲン出身の作曲家エドワルド=
グリーグです。Leipzig音楽院で学びその後コペンハーゲン、オスロ、ベルゲンで
活躍したロマン派時代の作曲家です。ノルウェーには複数の音楽大学がありますが
国立音楽大学はオスロのみで、グリーグの生まれ故郷であるベルゲンには
ベルゲン大学などの一般大学の一部としてグリーグアカデミーがあります。

そんなノルウェーに、今欧米の音楽家の注目を集め、オーディションに殺到するという話題の地域音楽家支援制度があります。どのような制度かと言いますと・・・・
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≪概要≫

過疎地域で音楽を啓蒙し、同時に音楽を若い人たちに教え、大きな都市やより
人口密度の多い地域の子どもたちと同等の音楽的な環境や可能性を確保しようという
考えに基づいて作られた支援制度。

(1)彼らは何をするのか

地域音楽家は、その50%を音楽教育に当て、50%を演奏活動に当てる。
これにより彼らは、地域での音楽学校や高校の音楽の教師、指導員を
務めつつ、コンサート、音楽プロジェクト、学校、幼稚園、教会でのコンサートや
ツアーなどの地域での音楽シーンに貢献できる。彼らは、フェスティバル、コーラス、ブラスバンド、アンサンブル、オーケストラ、その他音楽グループなどの地域の音楽シーンでしばしば共同作業を行い、彼らは地域オペラシリーズ、室内楽フェスティバルでも中核の演奏家となっている。

(2)彼らとは誰なのか

ノルウェーのある県では、15人の地域音楽家が採用されており、この15名は、
3つの基礎自治体に分かれている。

A地域6名・・・女声、ヴァイオリン、ギター、トランペット、フルート、ピアノ
B地域5名・・・女声、トランペット、ヴァイオリン、チェロ、パーカッション
C地域4名・・・男声、トロンボーン、チェロ、ピアノ

どの地域も面接とともに、室内楽演奏、ソロ演奏、子どもの音楽会を含む
オーディションに受からなければいけない。
当然のことながら音楽家のクオリティーは保証されている。

(3)ファンディングとファイナンス

彼らの費用は県が演奏部分の50%(全体の25パーセント)を負担する。
残りの50%の演奏部分は、音楽指導教育部分と共に属する基礎自治体が負担する
(全体の75%)県は支援の見返りとして期当たり一人10日間保持することができ
地域の音楽グループ、アンサンブル、バンド、劇場は、この期間彼らのプロジェクトや演奏会での演奏者として活用できる。その地域のプロジェクトであることが唯一の条件となっている。

地域音楽家は、このような形で県の自治体に集められ、レベルの高い広い領域で
のコンサートや演奏に寄与する。その上、それぞれの基礎自治体は、地域の音楽家
による演奏会やその演奏曲目を提供することになる。

ノルウェーのある県では地域音楽家制度が定着してから、音楽家たちは全世代の
ために広範囲なレパートリーを手に入れる努力をし、さらなるレベルアップを目指している。
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上記が、ノルウェーの地域音楽家支援制度です。

目に見えない音楽を目に見える形で人々に提供する。
その目的は、地域間に生じる格差に捉われることなく、
国の未来を創る子どもたちの教育に貢献すること。

このような制度が生まれた背景には
ノルウェーと言う国が長い間育んできた音楽への理解度が
深く関係していると思います。ですから、今すぐ日本にも、
などと言うのは無理があります。
無理があるのは重々承知ですが、思わないと実現しませんし
そうなるよう少しずつ努力していきたいですね。

穴澤さん、興味深いお話をありがとうございました。